物損事故から人身事故への切り替えには交通事故の診断書が必須!
交通事故(人身事故)では、整形外科などで作成してもらった「診断書」がとても重要な役割を果たします。
提出先は複数ありますが、「物損事故(物件事故)」から「人身事故」への切り替えの際にも、診断書を警察に提出する必要があります。
ここでは、物損事故から人身事故へ切り替える際、警察に提出する必要がある「診断書」について詳しく説明します。
なお、交通事故に関係する診断書には「後遺障害診断書」というものもありますが、ここでは警察への提出に使用する通常の診断書についてのみ解説します。
このコラムの目次
1.診断書とは
診断書とは、医師が患者を診察し、病状について判断した結果を記す書類です。
患者の氏名、生年月日、病名や傷病名、具体的な病状や症状、治療に要する見込み期間などが記載されています。
診断書を書くことができるのは「医師」のみです。医師のみが、人を「診察」し、「治療行為」をすることができるからです。
また、基本的に実際に診察治療を行った医師しか作成できません。
たとえば、整骨院の先生は医師ではなく「柔道整復師」なので、診断書を作成することはできません。
つまり、交通事故後、診断書を書いてもらいたければ、「整骨院」ではなく「整形外科」などの病院を受診する必要があります。
診断書を作成してもらうと、料金が発生します。
診断書には健康保険が適用されないので、実費で3000~5000円程度かかることが多いです。
医師に診断書を依頼すると作成に取りかかってくれますが、忙しい医師の場合には、後に手の空いたときに書くということもあるでしょう。
診断書の作成には、即日~1週間程度かかることが多いです。単純な診断書であればすぐに発行してもらえますが、内容が複雑になると時間がかかります。
2.人身事故への変更で警察に診断書を提出する
冒頭で述べたとおり、診断書を警察へ提出する必要があるケースがあります。
なぜ交通事故で警察に診断書を提出する必要があるのか、疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。
問題になるのは、「事故当時は誰も怪我をしていないと思っていたけれども、実際には怪我をしていたと後に判明した」ケースです。
追突事故などに遭った際、どこにも外傷はなく、事故現場では特に痛みなどの症状を感じない方がいらっしゃいます。その場合、「物損事故」として届出をするでしょう。
しかし、むち打ちなどになった場合には、事故当時に自覚症状がなくても、1日、2日経ってから痛みやしびれが出てくることがあります。
被害者が病院に行き、医師から診断を受けて初めて、交通事故が原因でむち打ちになっていたことに気づくのです。
ただ、警察にはすでに物損事故として届出をしてしまっています。そのままでは、「物損事故の交通事故証明書」しか発行されません。
物損事故の交通事故証明書しかなかったら、その交通事故は公的に「物損事故」扱いとなるので、保険会社も物損事故を前提とした対応しかしない恐れもあります。
すなわち、物損事故では、治療費や休業損害、慰謝料などは発生しないので、物損事故扱いのままになると、被害者はこれらの賠償金を受け取ることができないこともありうるのです。
そのようなことになる被害者が受ける不利益が大きすぎるので、対応策としては物損事故から人身事故へ切り替える手続きがあります。
この切り替え手続きで、警察に診断書を提出する必要があるのです。
交通事故後、物損事故から人身事故へ切り替えをするには、警察に行って申請しなければなりません。
人身事故であることを証明するには、実際に病院に行って、診察した医師が「怪我をしている」と診断していることが必要なのです。
後から怪我をしていると気づいたら、すぐに、遅くとも事故から一週間から10日以内に病院に行って診断書を作成してもらいましょう。
事故現場の管轄の警察署に持参すると、物損事故から人身事故に変更ができて、人身事故の事故証明書を発行してもらえるようになります。
物損事故から人身事故に切り替えをするとき、警察へ診断書を提出する期限はあるのでしょうか?
まず法律や制度上、定まった期限は設けられていません。しかし、交通事故から時間が経過すると、事故と怪我との因果関係が疑わしくなってしまいます。あまり遅くなると警察が人身事故への切り替えを受け付けてくれなくなる可能性があるので、注意が必要です。
診断書の提出によって人身事故への切り替えをしたい場合には、事故後3日〜10日の間に病院に行った後、できれば近いところで警察に行って手続きすることをお勧めします(実際には、事故後数ヶ月経っていても受け付けてくれることがありますが、対応してくれないこともあるので、早いに越したことはありません)。
3.警察に診断書を提出しないとどうなるか
では、物損事故として届出をした後、警察に診断書を提出しないで放置しておくとどうなるのでしょうか?
(1) 自賠責保険が適用されない
まず、自賠責保険が適用されません。自賠責保険は人身事故のケースでしか保険金が支払われないからです。
もし、事故の加害者が任意保険会社に加入していなかった場合は、物損事故の場合自賠責保険からの支払いが受けられないことになってしまいます。
もっとも、後述4にて、その場合の対応方法についてお伝えいたします。
(2) 任意保険会社の対人賠償責任保険が適用されない
物損事故の場合、任意保険会社の「対人賠償責任保険」が適用されません。
適用されるのは、物損事故についての「対物賠償責任保険」のみです。
対物賠償責任保険からは、車の修理費・全損した場合の買い換え費用・代車費用・評価損・休車損害・積荷の損害などが支払われます。
一方、対人賠償責任保険が適用されないと、以下のような費用は支払われません。
- 治療費
- 付添看護費
- 入院雑費
- 休業損害
- 入通院慰謝料
- 後遺障害逸失利益
- 後遺障害慰謝料
ただし、実際には、警察への届け出が物損事故であっても対応してくれることがほとんどです。むしろ、相手の保険会社から、「警察への届け出が物損でも対応するから、切り替えしないでほしい。」といわれることもあります。
(3) 人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険が支払われない
人身事故に遭ったとき、被害者が自動車保険の「人身傷害補償保険」や「搭乗者傷害保険」に加入していたら、自分の保険会社から保険金を受け取ることができます。
しかし、事故が物損事故扱いになると、これらの保険金を受け取ることもできません。ただし、これも(2)と同様です。損保側が認定をすれば問題ありません。
以上より、物損事故になると、理屈上は相手の保険会社からも自分の保険会社からも人身損害についての保険金が支払われないこともあり得ます。
この他にも、物損事故では「実況見分調書」が作成されません。実際にはこれが一番大きなデメリットになることが多いでしょう。これは、交通事故当時の道路状況や、車両の状況、事故現場の見取り図・写真などが記載されている書類で、事故の過失割合などを決める際に重要な証拠となるものです。
過失割合は、被害者に支払われる金額に直接的に影響します。正当な金額の賠償金を受け取るためには、事故状況が正確に記入された実況見分調書が必要不可欠と言えるでしょう。
参考:柏市で交通事故に遭ったが、過失割合に納得できない…対処法は?
4.診断書の提出が遅れた場合の対処方法
そうはいっても、事故後毎日を忙しくしている間に日数がかなり過ぎてしまい、警察で診断書を受け付けてもらえなかった、ということは有り得ます。
その場合には、慰謝料などの人身損害の賠償金は諦めるしかないのでしょうか?
実は、そういうわけでもありません。このようなとき、自賠責に対して「人身事故証明書入手不能届」という書類を提出すると、人身事故扱いしてもらえる可能性があります。
人身事故証明書入手不能届とは、人身事故として届出ができなかった理由を記入して自賠責に提出するための書類です。相手の保険会社にも書式があるので、取り寄せて作成・提出しましょう。
人身事故証明書を入手できない理由を書かなければなりませんが、「事故当時には痛みなどの症状を感じられなかったが、その後痛みが出てきて病院に行った。ところが警察で人身事故への切り替えを受け付けてもらえなかった」などの事情を書いて提出すれば問題ないでしょう。
この書類が受け付けられたら、自賠責でも人身事故として取り扱ってもらえて、人身事故関係の賠償金を支払ってもらえるようになります。
しかし、本項目に関して、あくまで人身事故として取り扱ってもらえるのは自賠責や任意保険会社という民事の紛争に対してのみです。
被害者に人身事故加害者として刑事処分(罰金刑など)を求めたり、行政に加害者の免許証点数の加点を求めたりすることはできませんので、ご注意ください。
5.交通事故でお困りの方は泉総合法律事務所へ
交通事故に遭ったなら、どんなに軽い怪我でも人身事故として処理するべきです。
また、もし事故後数日経ってから症状が出始めたら、すぐに病院に行って診断書を作成してもらい、人身事故に切り替えましょう。
物損事故で処理すると、治療費や慰謝料等の損害賠償を請求できません。
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