交通事故

人身事故を物損事故で届け出てしまった際のデメリットと切り替え方法

人身事故を物損事故で届け出てしまった際のデメリットと切り替え方法

千葉県は、全国でも交通事故の多い県としてよく知られています。泉総合法律事務所がある柏市でも年間約1,000件以上の交通事故が発生しています。

柏市役所ウェブサイトで公表される統計情報によれば、平成28年の柏市内の交通事故は1,238件とのことです(交通事故死亡者10人)。

泉総合法律事務所でも多くの交通事故の相談をお受けしていますが、相談の中には、「ケガがあるにもかかわらず物損事故として処理されている場合」があります。

相談者の方になぜ人身事故にしなかったのかと尋ねてみると、「その時は痛みも何もなかった」、「相手方(保険会社)から物損にしてくれといわれた」、「警察から物損でいいですね?といわれたから」といった答えが返ってきます。

しかし、実際にケガがあるにも関わらず物損事故として処理されてしまうと、被害者にとって大きな不都合が生じる場合が多いです。

そこでここでは、人身事故を物損事故として取り扱ってしまった場合のデメリットと、物損事故として処理した交通事故を人身事故に切り替える方法について解説します。

1.物損事故と人身事故の違い

まずは「人身事故」と「物損事故」との違いについて確認しておきましょう。

交通事故によって、車のバンパーがへこんだ、ブロック塀が崩れたといった「被害が物の損傷のみ」の場合は、「物損事故」となります。

これに対し、人身事故は、交通事故によって「人がケガをした」、「人が死亡した」場合のすべての事故のことをいいます。

たとえば、車は大破したけど人は打撲だけといったように、物の被害の方が大きい場合であっても、人がケガをしていれば「人身事故」となります。

「人身事故と物損事故を区別する基準がよくわからない」という人も少なくないようですが、「人がほんの少しでもケガをしたらすべて人身事故」と覚えておけばよいでしょう。

2.物損事故として処理されてしまう場合

実際のケースでは、本当は人身事故なのに物損事故として処理されてしまうことも少なくないようです。

このような取扱いになってしまうのは、次のような場合のときです。

  • 痛みなどの症状が交通事故後数日経ってから現れた場合
  • 事故現場での処理を簡単にするため
  • 交通事故の相手方から「物損事故」で処理することを提案された場合

(1) 自分の判断で物損事故としてしまう場合

最も多いのが、事故の際には痛みなどの自覚症状がなかったために物損事故として処理したところ、数日経って自覚症状が現れたという場合です。

また、身体に衝撃を受けた認識があっても「痛み」などの強い症状を感じないため、「たいしたことないだろう」と判断してしまうこともあるようです。

特に、車の運転は何かしらの用事があってしていることが多く、交通事故処理に時間がかかるのを避けるために、「事故処理を速く終わらせたい」からと「物損事故」にしてしまうこともあります。

(2) 交通事故の相手方から依頼される場合

交通事故の相手方から「物損事故」にしてくれるよう積極的にお願いされることもあります。

交通事故の加害者となった側にとっては、事故が「物損事故」として処理された方が、次の点で有利となります。

  • 物損事故になれば、交通事故の処理が早く終わる
  • 物損事故なら損害賠償の安く抑えられる
  • 物損事故では、行政罰(反則金・違反点数)・刑事罰(罰金など)に問われることがない

用事があって車を運転しているのは被害者だけではありません。

「大事な商談先に向かう途中だった」、「このあと知人などと待ち合わせがある」、「飛行機に乗るために空港に向かう途中だった」。加害者が先を急ぎたい理由もさまざまです。

また、物損事故であれば、その後の示談交渉も簡単で、損害賠償も安く済みます。

また、交通事故が物損事故として処理されれば、加害者は、その他に道路交通法違反がある場合を除いて、行政罰・刑事罰に問われることはありません。

特に、交通事故の相手方が、「トラック運転手」、「タクシー運転手」といった車の運転を職業としている人の場合には、行政罰(免許の点数)が加点されてしまうことは、大きな問題です。

場合によっては、その事故が人身事故となれば、累積点数で「免許停止(取消し)」となるようなケースもあるからです。

また、加害者本人だけでなく加害者が加入している任意保険会社からも、「事故も軽微なので物損事故として処理してかまいませんね?」と打診されることもあります。

実際に損害賠償を支払う保険会社にとっても、物損事故となった方が処理も簡単で、支払う損害賠償額も抑えられるからです。

(3) 警察から「物損事故」として処理されることを促される

たとえば、むち打ち症のような症状は、交通事故の大きさを問わず起きる可能性があります。

しかし、バンパーが軽く凹んだ程度の交通事故のような場合には、警察官から「これは物損事故でいいですね?」とか「怪我はないですね?」と質問され、つい「ハイ」と答えてしまうようなこともあるようです。

交通事故の当事者のほとんどは交通事故について専門的な知識があるわけではないので、「警察がそういうのだから物損事故なのだろう」と考えてしまいます。

実は、警察にとっても「物損事故」と処理した方が好ましい場合が少なくありません。なぜなら、物損事故の方が事故処理を早く簡単に済ますことができるからです。

人身事故のときには、警察は、実況見分調書と供述調書を作成して、検察官に送致しなければなりません。

そのため、事故現場などの実況見分を行い、交通事故の当事者双方から事情を聴取しなければなりません。物損事故と処理すれば、このような作業を行う必要がありません。

警察官が「人身事故を物損事故として処理する」ことはないと思いますが、一見すると軽微な事件では「物損事故に違いない(そうであってほしい)」という警察官の予断が生じる可能性も否定できません。

3.ケガがあるのに物損事故で処理してしまった際のデメリット

身体に衝撃を感じた(ほんの少しでケガをした)とき」には、絶対に「人身事故」として処理してもらうべきです。

実際には交通事故によってケガしているのにもかかわらず、「物損事故」として処理してしまったときには、次のようなデメリットが生じる可能性があります。

  • 十分な治療費を支払ってもらえないことがある
  • 後遺障害が残ったとしても「後遺障害等級認定」を受けられないことがある
  • 過失割合の認定で不利になることがある

(1) 治療費を早期に打ち切られる、もらえないこともある

実際にケガをしているにもかかわらず、「物損事故」として処理する場合に問題となるのは、「むち打ち症」の場合がほとんどです。

「むち打ち症」は、目で見て判断できないものであるだけでなく、事故から数日経ってからはじめて症状がでる場合もあるからです。むち打ち症は治療が長期化することも珍しくありません。

「物損事故」として処理しているときは、任意保険会社は支払う損害賠償額をできる限り少なくしようと考えるのが一般的です。そのため、長期間の通院治療が必要な場合でも「早期の治療費打ち切り」を通告してくることが少なくありません。

また、被害者が「事故直後に医師の診察を受けていない」ケースでは、物損事故であることを根拠に、交通事故との因果関係を否定して治療費の支払いに応じてくれないこともあります。

特に、被害者自らの事情で「物損事故で処理してかまわない」と判断したときには、事故直後に通院していないケースが少なくないので注意が必要です。

身体に衝撃を感じたときには、必ず事故直後に医師の診察を受けて下さい。

(2) 後遺障害が残ってしまっても補償してもらえない

むち打ち症は、「後遺障害」として残ってしまうことが少なくありません。「人身事故」として処理した場合であれば、後遺障害に対しては、認定された「後遺障害等級」に応じた慰謝料(と逸失利益)を請求することができます。

しかし、後遺障害等級認定は書類審査であるため、交通事故が「物損事故」として処理されているときには、ほとんどのケースで「非該当(後遺障害なし)」と判断されてしまいます。

(3) 過失割合の認定で不利になる

交通事故は、当事者の双方に過失があることが少なくありません。片方だけがケガをしたケースであっても、ケガをした当事者(運転手)にスピード違反、脇見運転などの過失があれば、その分は損害賠償額から減額されてしまいます(過失相殺)。

実際にも交通事故の当事者間で、過失割合(事故の状況)が争いになることは珍しくありません。

物損事故では、交通事故の状況を詳細に記した「実況見分調書」が作成されません。そのため、交通事故の詳細がわからないために、過失割合の認定で不利益を受ける可能性があります。

4.物損事故から人身事故へ切り替える方法

「ケガがあったにもかかわらず物損事故として処理してしまった場合」や「ケガがないと思って物損事故で処理した後にむち打ちなどの症状が現れた」というときには、できるだけ早く「物損事故から人身事故への切り替え」を警察に申し出ましょう。

事故から1週間から10日以上経ってから人身事故への切り替えを申し出ても、交通事故との因果関係を否定されて受理してもらえない場合があるからです。

(1) 人身事故に切り替える届出を警察にするために必要なこと

物損事故を人身事故に切り替えるためには、「医師の診断書」が必要です。

物損事故を人身事故に切り替えるためには、「実際に発生している症状」が「交通事故を原因とする」ものであることを認めてもらう必要があるからです。

診断書は「医師」でなければ作成することができません。

軽微な事件の場合には、病院で診察を受けずに整骨院などの施術のみで対処してしまう人も少なくありません。

特に、事故直後に医師の診断を受けていない人は早急に医師の診断を受ける必要があります。

医師に診断書を書いてもらえれば、警察に届け出ることで、人身事故への切り替えができます。

(2) 警察に切り替えの届出を受理してもらえなかった場合の対処法

事故から時間が経過してから届出をした場合や医師の診断書の内容が十分ではない場合などには、警察に人身事故への切り替えを届け出ても受理してもらえないことがあります。

この場合には、相手方の保険会社から「人身事故証明書入手不能説明書」を取り寄せて、必要事項を記入し、保険会社に提出します。

「人身事故証明書入手不能説明書」を提出すれば、人身事故に切り替えられなかったときでも、治療費などの支払いに応じてもらえる可能性があります。

ただし、「人身事故証明書入手不能説明書」は、人身事故に切り替えられなかった事情を説明する書類に過ぎず、人身事故であることを証明する書類ではありません。

最終的には保険会社の判断次第となってしまいます。保険会社に治療費や慰謝料の支払いを拒否され、それらを請求するときには、訴訟を起こすほかありません。

5.人身事故への切り替えサポートも弁護士へ

ケガがあるにもかかわらず「物損事故」として処理したままにしておくと、被害者にとっては良いことは何ひとつありません。

すでに、人身事故への切り替えが困難となっているケースでは、弁護士ができる支援にも限界が生じることがあります。

交通事故で身体に衝撃を受けたときには、必ず人身事故にしてもらった上で、速やかに医師の診察を受けることが何よりも大切です。

また、物損事故として処理した後にむち打ちなどの症状が出たときにも、すぐに医師の診察を受けて人身事故に切り替えてもらえるよう届け出ましょう。

むち打ち症の補償(損害賠償)をめぐっては、保険会社と争いになることが少なくありません。保険会社との示談交渉でお困りの際には、お気軽に泉総合法律事務所までご相談ください。

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