自己破産の手続きの流れについての基礎知識
日本では、2003年以降、自己破産の件数は減少傾向にあります。
とはいえ、近年では微増の傾向も見えています。裁判所が公開した2019年の自然人の自己破産申立件数(年報)は、7万3095件でした。
この記事をご覧になっている方の中にも「借金が返せないから自分も自己破産した方が良いのではないか」と考えている方がいらっしゃるかもしれません。
ここでは、自己破産がどのような手続きで進んでいくのか、自己破産手続きの流れについて説明していきたいと思います。
このコラムの目次
1.自己破産とは
自己破産とは、「目ぼしい資産については換価して債権者に分配する代わりに、借金生活から解放する制度」です。
借金額が嵩んだ人が自己破産した場合、借金の支払い義務を免除してもらうことにより、新たな生活を送ることが可能になります。
借金が返済できない人にとっては、以降借金のない生活が送れるという経済的メリットがある制度です。
その一方で、お金を貸していた側の債権者には当然大きな経済的デメリットを与える手続きですので、裁判所のもと厳密に精査をされながら進められることになります。
2.自己破産手続きの流れ
それでは、弁護士に依頼後の自己破産の大まかな手続きの流れを見ていきます。
ちなみに、前述のとおり自己破産は裁判所を通す手続きですが、その管轄は自己破産を申立てる人の住所地によって異なり、その具体的な進行も各裁判所によって微妙に異なっています。
よって、できるだけ一般化するように説明いたしますが、必ずこのコラム通りの手続きになるというわけではないということはご承知おきください。
(1) 申立てから「破産手続開始決定」まで
まず、自己破産を申立てようとする債務者(申立人)は、自身の住所を管轄する地方裁判所にその申立てを行います。申立ては依頼を受けた弁護士にも可能です。
この際、申立て用の書類が必要になりますが、多くの裁判所は自己破産申立用の書式を持っており、これに記入する形で作成していきます。
内容としては、自己破産に至るまでの経緯、借入先の債権者の一覧、現在所持している資産の一覧、現在の収入状況等を記載していくことになります。
これと併せて、住民票(本籍地などの省略のないもの)、収入を証明する書類(源泉徴収票、給与明細書など)、上記資産を示す客観的資料(たとえば、不動産の登記簿謄本や、保険契約の解約返戻金証明書など)等の必要書類を提出します。
また、事前に申立て前数か月分の家計表や、手持ちのすべての銀行口座の一定期間の通帳のコピーも用意する必要があります。
これらの資料を裁判所が検討し、支払不能状態であると判断すれば、「破産手続開始決定」が出され、自己破産手続きが開始されます。
(2) 手続きの分岐(管財事件と同時廃止)
自己破産手続きは、大きく二つの種類に分かれます。
というのも、債務者に価値ある資産がなく、資産を現金化する手続きを取るだけ無駄という事が明らかな場合、簡易な手続きでも問題ありません。
一方、このような資産がある方は、これを換価して債権者に分配する手続きが必要になります。
裁判所が債務者の財産の換価・処分・配当などの手続きをすべて担うことは、物理的に不可能と言えます。
そこで、このような資産が存在する場合には、「破産管財人」という自己破産に精通した弁護士を選任し、この者に破産者の財産を管理させ、債権者に分配する財産の選別や実際の売却・分配の処理を任せます。
この「破産管財人」が付く手続きを「管財事件」と言います。
[参考記事]
自己破産をすると処分しなければならない財産とは?
一方で、財産を処分(現金化)する必要がなく、破産管財人が付かない手続きを「同時廃止」といいます。
管財事件になるか同時廃止になるかは、債務者は決めることができません。申し立てをした裁判所の判断に委ねられることになります。
「管財事件」「同時廃止」と言う二つの手続きの分水嶺は、資産があるかないかの1点だけで決まるわけではありません。実務上、破産者に「免責不許可事由」があるかどうかによっても異なってきます。
免責不許可事由がある場合、裁判所は原則借金を0にしてはいけないが、裁量によって例外的に免責を許可することができると決められています。よって、裁判所は破産者の経済的更生状況など諸般の事情を慎重に検討することになりますが、これもすべてを裁判所で精査することは物理的に難しいことから、この調査も管財人が基本的に行っています。
よって、免責不許可事由がある場合にも、「管財事件」に振り分けられることになります(ただし、軽微なものについては「同時廃止」に振り分けられる可能性もあります)。
参考:破産法に定められた免責不許可事由とは?
管財事件の場合
管財事件のその後の流れとしては、まずは管財人の事務所での面談が設定されます。ここで破産に至る経緯や、申立書などの書類について詳細を聴取されます。
その上で、債権者に分配する財産を決定し、換価・配当が行われます。
また、免責不許可事由がある場合には、それにかかわらず裁量による免責を認めてもよいかどうか、経済的な更生状況などの調査が行われます。
その後、破産者は裁判所で行われる「債権者集会」に出頭し、この結果を管財人が裁判所と債権者(債権者が大手貸金業者や金融機関の場合には、出席することはまずありません)に報告をし、債権者から質問等を受け、これをもとに裁判官が免責を許可するかどうかを決定します。
同時廃止の場合
上記のとおり、同時廃止の手続きとなるケースでは、処分可能な資産も免責不許可事由もないので、裁判所にて「免責審尋」を受けて終了となります。
免責審尋は、免責を許可するかどうかについて裁判官が実際に面接し破産者から話を聞くという手続きなのですが、現在では形骸化されている節もあり、集団でおこなわれて裁判官が今後についての訓示を5分ほど述べて終了という裁判所もあるようです。
同時廃止事件、管財事件ともに、裁判所に納める予納金を準備する必要があります。費用は大まかに言えば、前者は2万円前後、後者は20万円以上となっており、同時廃止の方が手続きも費用も簡易的に終わるということが分かります。
予納金がどの程度必要となるかは、相談した弁護士にご確認ください。
(3) 免責許可決定
以上のような手続きを踏み、最終的に裁判所から「免責許可決定」が出されれば、無事に借金が免除されます。
ただし、免責不許可事由があるにもかかわらず、手続きに非協力的だったり、虚偽の申告をしていたり、経済的な更生がなされていないような場合には、「免責不許可」の決定が下される場合もありますので、十分な注意が必要となります。
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