むち打ちは後遺障害に認定されるか|重要なポイント解説
交通事故でむち打ちとなり、首等に痛みやしびれなどの症状が残ってしまった場合、後遺障害として損害賠償を受けることができる可能性があります。
しかし、むち打ちは、もっとも多い交通事故の被害でありながら、骨折や外傷などのように、外部から明確な症状とは異なるため、その後遺障害が本人の予想よりも軽いものとして認定されてしまう場合や、後遺障害の存在すら認めてもらえない場合が多いのです。
ここでは、むち打ちで後遺障害等級の認定を受けるポイントと、有利な後遺障害等級認定を獲得するために重要な弁護士の役割について解説します。
このコラムの目次
1.むち打ちの後遺障害
(1) むち打ちの後遺障害は3種類
後遺障害等級認定において、むち打ちの後遺障害の取り扱いは、3つの種類に分けることができます。
①12級13号に認定される場合、②14級9号に認定される場合、③後遺障害とは認定されない場合(後遺障害等級非該当)です。
- 12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
- 14級9号:局部に神経症状を残すもの
- 非該当:局部に神経症状を残さないもの
(2) 等級が異なることによる違い
①12級13号か、14級9号かという問題
12級13号に認定される場合と14級9号に認定される場合とでは、後遺障害慰謝料や逸失利益という損害賠償額を算定するための基準となる数値に大きな隔たりがあり、どちらの等級が認定されるかは、被害者にとって大きな問題です。
例えば、逸失利益(後遺障害が残ったため将来的に失われた収入)を算定する労働能力喪失率は、12級13号では14%、14級9号では5%と大きく違い、12級の方が賠償額が高額になります。
②14級9号か、後遺障害等級「非該当」かという問題
また、そもそも後遺障害等級が認定されない場合は、後遺障害慰謝料や逸失利益を認めてもらえないので、被害者にとって大きな不利益です。
14級9号に認定されるか、それとも非該当となるかも、大きな問題なのです。
(3) むち打ちの後遺障害認定の時期
医学上一般に承認された治療方法によっても治療の効果が期待できない場合、すなわち症状が固定されたといえる場合に、後遺障害認定の診断書を書いてもらうことができます。
そして、治療の効果が期待できない場合とは、一般的に、受傷してから6カ月以上経過した場合を指します。もっとも、障害が生じた体の部位によっては6カ月を経なくても診断書を書いてもらえます。
2.後遺障害認定等級の認定ポイント(12級/14級)
(1) 12級13号の後遺障害の認定基準のポイント
12級13号の具体的な認定基準のポイントは「他覚的所見の存在」です。
他覚的所見とは、本人以外の者(医師)が、その症状を客観的に認識できることです。これに対し、本人にしかわからない症状が「自覚症状」です。
①画像所見による他覚的所見(MRIなど)
他覚的所見は、レントゲンやMRIのような画像によって確認できるかどうかが第1の認定ポイントです。
例えば、首の頚椎の2番目と3番目の間隔が狭く変形して神経を圧迫している様子が画像から明らかであれば、それは他覚的所見があるということになります。
②神経学的異常所見による他覚的所見
もっとも、他覚的所見の確認は、画像を見る以外の方法によっても可能です。それが「神経学的異常所見」がある場合であり、第2の認定ポイントです。
神経学的異常所見とは、医学的な観点から、末梢神経に異常があることを確認できるということです。
例えば、体に一定の刺激が与えられると無意識のうちに体が反応してしまうことを「反射」と言いますが、筋肉の腱をたたいたときに、正常であれば一定の反射が起こります。
ところが、末梢神経に障害があると、反射が起こらない場合や反射が弱い場合、逆に異常に強い反射が生じる場合があります。
このような場合は、神経症状を医学的に判定できますので、他覚的所見があると認めることができます。
これ以外にも、筋肉が萎縮したり、筋力や握力が衰えていたり、知覚障害がおきていたりする場合も、やはり末梢神経の障害に由来すると医学的に確認でき、他覚的所見があると認めることができます。
(2) 14級9号の後遺障害の認定基準のポイント
①医学的に説明可能な症状であること
他覚的所見がなく、自覚症状しかないけれども、その症状が医学的に説明可能な症状である場合は、14級9号の後遺障害と認定されます。
そのため、MRIで異常なしと判断された場合でも14級の認定を受けることは可能です。
②症状に一貫性、連続性があるかどうか
次に、治療の経過から判断して、症状に「一貫性」と「連続性」が認められるかどうかも認定ポイントです。
痛みを訴えている部位が治療を通して一貫していなかったり、一度回復したはずの痛みが再発したりするなど、症状に一貫性や連続性が認められない場合は「事故によるものではない」と判断される可能性があり、後遺障害認定を受けるのが難しくなります。
③通院実績
通院が少なければ、「その症状は大したことない」と判断される可能性があり、後遺障害認定を受けるのが難しくなります。そのため、少なくとも週1回以上は通院することをお勧めします。
3.むち打ちの後遺障害慰謝料の相場
むち打ちの後遺障害が認定された場合の後遺障害慰謝料はいくらなのでしょうか。
交通事故の損害賠償においてはその基準となる金額が概ね3種類に分かれます。
①自賠責基準、②保険会社基準、③裁判基準(弁護士基準)です。
(1) 自賠責基準
一つは、自賠責保険の支払基準となる自賠責基準です。
被害者に最低保障を与えるために強制保険とされている自賠責保険の基準ですので、低い金額です。
- 12級13号のむち打ち後遺障害慰謝料は、自賠責保険では、93万円です。
- 14級9号のむち打ち後遺障害慰謝料は、自賠責保険では、32万円です。
(2) 保険会社基準
任意保険会社が独自に定めている内部基準です(保険会社によって金額は異なります)。
被害者の方がご自身で保険会社と交渉した場合には、およそこの基準での慰謝料を提示されることとなるでしょう。
- 12級13号のむち打ち後遺障害慰謝料は、保険会社基準では、100万円程度です。
- 14級9号のむち打ち後遺障害慰謝料は、保険会社基準では、40万円程度です。
(3) 裁判基準(弁護士基準)
損害賠償の金額を最終的に決定する権限があるのは裁判所だけです。その過去の裁判例などの集積を弁護士の団体がまとめて基準化したものが「裁判基準」とか「弁護士基準」と言われるものです。
弁護士に交渉を依頼することで、この基準での慰謝料を獲得できるようになります。
- 12級13号のむち打ち後遺障害慰謝料は、裁判基準では、224万円です。
- 14級9号のむち打ち後遺障害慰謝料は、裁判基準では、75万円です。
4.むち打ちの後遺障害等級認定を弁護士に依頼する重要性
後遺障害等級の認定には相手方の保険会社に任せる方法(事前認定)と被害者自身が行う方法(被害者請求)があります。
しかし、任意保険会社の事前認定では、有利な等級認定は期待できません。
そこで、後遺障害等級認定は、自賠責保険に対する「被害者請求」(自賠法16条)で行うべきなのです。
被害者請求の場合、被害者側が、自ら、医療機関から資料を取り寄せ、書類を整えて自賠責保険に提出しなくてはなりません。これは相当な手間がかかります。
けれども、弁護士に被害者請求手続きを依頼することが可能です。
依頼を受けた弁護士は、医師に書類の書き直しや加筆を依頼したり、再検査の実施を依頼したりして、希望の等級が得られる方策をとるのです。
このような活動は、法律だけでなく、交通事故にかかわる医学的な知識を持ち、算出機構の審査の実情にも精通した、交通事故に強い弁護士であって、はじめて可能な弁護活動といえます。
5.交通事故のトラブルは泉総合法律事務所へ
むち打ちは交通事故で最も多い怪我でありながら、後遺障害認定を受けることが難しく、認定率も低いです。正当な後遺障害等級認定を受け、適切な額の慰謝料を受け取るためには、お早めに弁護士にご相談ください。
泉総合法律事務所の弁護士は、これまで数多くの交通事故案件を受任し、むち打ちの後遺障害認定につきましても、多くの被害者の方をサポートしてきました。
相手方の保健会社とのやりとりにつきましても、弁護士が代行致します。精神的苦痛から解放され、治療に専念することができるでしょう。
交通事故でお悩みの方は、泉総合法律事務所に是非ご相談ください。
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