交通事故賠償請求の費用の不安を解決!弁護士特約のメリットと使い方
交通事故にあったときに、弁護士に相談、依頼したら良いと聞いた。でも、費用が心配……。
その不安を解消するのが、自動車保険の弁護士特約です。
弁護士特約は、広く普及しながら、実際の利用数はまだまだ少ないと言われています。しかし、利用することを断然、お勧めします。
ここでは弁護士特約のメリットと使い方の注意点を説明します。
このコラムの目次
1.弁護士特約とは
弁護士特約とは、自動車保険の特約です。自動車事故で弁護士に相談、依頼する必要が生じたときに、その費用を保険会社に負担してもらえます。現在は、多くの自動車保険で弁護士特約を結べるようになっています。
弁護士特約に、どのような条件、内容を盛り込むかは、各保険会社によって異なりますし、同一保険会社であっても、保険商品、契約時期によって異なる可能性があります。
したがって、弁護士特約の正確な内容は、各保険契約の約款を読まない限り明らかとはなりません。
ここでは、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社の商品である「個人総合自動車保険」(商品名「タフ車の保険」平成30年1月)を参考例として説明します(※)
※なお、同保険は、あくまでも一参考例とするだけであり、同保険の内容が弁護士特約の一般例であるとか、典型例であるなどを意味するものではありません。
2.弁護士特約の対象となる費用と保険金の限度額
(1) 弁護士特約の対象となる費用
弁護士特約によって保険金支払の対象となる費用は、次のものです。
- 法律相談料
- 弁護士報酬(着手金、報酬金、日当)
- 訴訟費用、仲裁費用、和解費用、調停費用など
- 実費(収入印紙代、切手代、コピー代、交通費、宿泊費、通信費など)
なお、弁護士特約は、弁護士費用だけでなく、司法書士費用、行政書士費用も保険の対象とされていますが、ここでは弁護士に関してだけ説明します。
司法書士費用、行政書士費用については、各保険契約の約款を御覧ください。
(2) 弁護士特約で支払われる保険金の最大限度額
弁護士特約で、保険会社が支払ってくれる保険金の上限は、次のとおりです。
- 法律相談料は、10万円
- 法律相談料以外は、300万円
3.弁護士特約が適用された場合のモデルケース
それでは、交通事故で弁護士費用特約を利用して、弁護士を依頼した場合のモデルケースを見てみましょう。
(1) 弁護士費用の基準(一般的な例)
かつて、弁護士の費用は、弁護士会の規程によって定められていました。
しかし、2004(平成16)年、規程は廃止されてオープン価格となり、各弁護士が自由に金額を決定して良いことになりました。
このため、弁護士の料金は、弁護士次第ですが、ここでは、説明のために、廃止前の旧規程(東京弁護士会「弁護士報酬会規」平成8年4月1日施行)を利用します。
実際に、現在でも、この旧規程を用いている法律事務所も多く存在します。
この規程では、次のように定められています。
経済的利益(※)が300万円を超え、3,000万円以下の場合
着手金は、5%+9万円
報酬金は、10%+18万円
(消費税別)※経済的利益とは、弁護士の活動によって、依頼者が得ることのできる利益を金銭で評価したものであり、これを基礎として費用額を計算します。
相手方に金銭を請求する損害賠償請求の場合は、請求金額が経済的利益とされていました。
(2) モデルケース1 弁護士費用が0円となるケース
Aが弁護士を依頼して、Bに対し、1,000万円の損害賠償を請求する訴訟を提起し、800万円を支払えとの判決を得た場合、着手金と報酬金は次のとおりになります。
着手金 1,000万円☓5%+9万円=59万円
報酬金 800万円☓10%+18万円=98万円
弁護士費用の合計 157万円
賠償金 800万円-弁護士費用157万円=643万円
Aは、800万円の賠償金を得て、弁護士費用として157万円を支出するので、実質643万円のプラスとなります。
このケースで、Aが弁護士特約を利用していれば、弁護士費用157万円は保険会社が負担するので、賠償金800万円の全額がAの手もとに残ります。
(3) モデルケース2 弁護士費用が節約できるケース
Aが弁護士を依頼して、Bに対し、3,000万円の損害賠償を請求する訴訟を提起し、2,500万円を支払えとの判決を得た場合、着手金と報酬金は次のとおりになります。
着手金 3,000万円☓5%+9万円=159万円
報酬金 2,500万円☓10%+18万円=268万円
弁護士費用の合計 427万円
賠償金 2,500万円-427万円=2073万円
Aは、2,500万円の賠償金を得ても、弁護士費用として427万円を支出するので、実質は、2073万円のプラスとなります。
このケースで、Aが弁護士特約を利用していれば、弁護士費用427万円のうち300万円は、保険会社が負担するので、Aが負担する弁護士費用は、127万円で済みます。
2,500万円-127万円=2,373万円
賠償金2,373万円がAの手元に残ります。
4.弁護士特約のメリット
弁護士特約は、保険会社が弁護士費用を負担してくれるので、依頼者にとってお得であることはおわかりいただけたと思います。
しかし、弁護士特約を利用することによって得られるメリットは、それだけではありません。
(1) 法律相談料の心配なく弁護士に相談できる
弁護士の法律相談料は旧規程では、初回法律相談料が、30分毎に5,000円(税別)とされていました。現在でもこの基準を用いる法律事務所は珍しくありません。
これによると1時間で1万円、1時間半で15,000円です(※)。
また、2回目以降の法律相談は30分毎に5,000円以上2万5,000円以下の範囲とされていました。事件を正式に依頼しないまま、法律相談を二度三度繰り返す場合は1時間で数万円かかるわけです。
しかし、弁護士特約を利用して法律相談をおこなえば、10万円までは保険会社の負担となりますから、料金を気にせずに相談を行うことが可能です。
※現在では、交通事故の被害事件については、法律相談料は無料という法律事務所も増えています。
(2) 着手金の壁がなくなる
弁護士費用は、事件にとりかかるときに支払う着手金と事件が終了したときに支払う報酬金の2本立てとする法律事務所が一般です(※)。
交通事故の被害者が弁護士に依頼したくても、数十万円単位の着手金を用意する必要があり、弁護士への依頼を希望する人々への大きな壁となっていました。
弁護士特約を利用することで、着手金の負担を心配することなく、弁護士に依頼しやすくなります。
※現在では、交通事故の被害事件については、着手金は不要という法律事務所も増えています。
(3) 弁護士に示談交渉を任せることができる
交通事故の損害賠償額を最終的に確定させるためには、加害者側の任意保険会社との間で、交渉を行い示談を成立させなければなりません。
任意保険会社の担当者は交通事故事件処理のプロです。素人の被害者がプロを相手に示談交渉を行うことは、大変な負担です。
弁護士特約を利用して弁護士を代理人として選べば、費用の心配なく示談交渉を任せることができます。
被害者は、時間的にも精神的にも、非常に楽になります。
(4) 賠償金額を高額化できる
①弁護士基準を用いることで賠償金額が高額化する
示談交渉では、任意保険会社は保険料の支出を抑えるために、自社の内部基準による低い金額を提示してきます。
これに対し、弁護士は「弁護士基準」、「裁判基準」と呼ばれる基準で賠償額を計算します。
これは、過去の裁判例等から賠償額の目安を定めたもので、裁判所も利用するものですが、任意保険会社の内部基準よりも高額です。
弁護士特約を利用して弁護士を依頼し、示談交渉を行えば、保険会社が提示する金額よりも高額の賠償金を得られる確率が非常に高くなります。
②より高い後遺障害等級の認定を受けることで賠償金額が高額化する
後遺障害等級の認定申請は、任意保険会社の「事前認定」がよく利用されています。
これは、任意保険会社が、直接に医療機関から診療記録などを取り寄せ、被害者に代わって、損害保険料立算出機構に提出して等級の認定を求めるものです。任意保険会社のサービスとして行われ、被害者に手続きの負担がない利点があります。
反面、事前認定では、どのような資料に基づいて認定されたのか被害者には分かりません。
また、任意保険会社は相手方ですので、より高い後遺障害等級を目指して努力するわけではありません。事前認定による等級認定では、被害者の不満が残りやすいことが指摘されています。
これに対し、弁護士特約を利用して、弁護士に等級認定の申請を依頼すれば、弁護士は自賠責保険の「被害者請求」手続で等級認定の申請を行います。
医療機関から後遺障害診断書や診療記録等の資料を取り寄せ、その内容を検討し、足りない部分は医師に依頼して補充するなどして、より高い後遺障害等級の認定を受けるため、十分な資料を準備して申請します。
等級が高くなれば、後遺障害慰謝料や逸失利益(後遺障害のために失われた将来の収入)も高額化が期待できます。
(5) 自分で弁護士を選べる
弁護士特約を利用する場合、どの弁護士に相談や依頼をするかは自分で選べます。保険会社の決めた弁護士を押し付けられるわけではありません(ただし、事前に保険会社の承認を得る必要があります)。
また、自分で弁護士を選べない場合は、保険会社から、事実上、紹介してもらうことも可能です。
(6) 弁護士特約を利用しても等級は下がらない
弁護士特約を利用しても、いわゆるノーカウント事故とされます。
保険等級が下がることなく、次回更新時の保険料が高くなることはありません。
(7) 弁護士特約の保険料は安い
弁護士特約の保険料は、とてもリーズナブルです。
保険会社によって異なりますが、年間1500円から3,000円程度が相場です。
(8) 家族なども利用でき、契約車両に限定されない
弁護士特約を利用できるのは保険契約における記名被保険者だけではありません。
記名被保険者とは、被保険者として保険証券上に記載されている方です。ここでは、わかりやすく、「本人」と表現させていただきます。
弁護士特約を利用できる者
- 本人(記名被保険者)
- 本人の夫(又は妻)
- 本人の親族で同居している者
- 本人の夫(又は妻)の親族で同居している者
- 本人の子供で別居している未婚者
- 本人の夫(又は妻)の子供で別居している未婚者
- 契約車両の搭乗者
- 契約車両以外の車の搭乗者(①ないし⑥に該当する者が運転中の車)
- 契約車両の所有者
弁護士特約は、このように広く家族が利用することができ、しかも自動車保険の契約車両での事故に限らずに広く適用されます。
5.弁護士特約の使い方の注意点
弁護士特約は、非常にメリットのある制度です。しかし、弁護士特約も万能ではありません。使い方に注意するべき点があります。
(1) 適用される事故は、「被害事故」と「無責事故」だけ
弁護士特約は全ての事故に利用できるわけではありません。弁護士特約が適用されるのは「被害事故」と「無責事故」です。
「被害事故」とは、被保険者が被害を受け、加害者に対して損害賠償請求をできる事故です。
「無責事故」とは、被保険者が関与した事故で他者に被害が生じたものの、被保険者には損害賠償をする法律上の責任がない場合です。つまり、被害者の過失が100%のケースです。
弁護士特約は、上記以外の事故、すなわち被保険者が加害者で賠償責任がある事故には利用できません。しかし、この場合は、任意保険の示談代行制度が利用可能なので、保険会社が示談交渉を担当してくれます。
(2) 利用には保険会社の事前承認が必要
弁護士特約を利用する場合は、保険会社の事前承認が必要とされています。
まず、弁護士と委任契約を締結する場合には、事前に委任契約の書面を保険会社に提出し、その承認を得なければなりません。
次いで、弁護士費用、法律相談料を支払う前に、その明細を保険会社に通知して承認を得なければなりません。
そして、保険会社に保険金を請求するためには、費用の総額と内容を確認できる客観的な資料(※)を添付して請求しなければなりません。特に法律相談は、相談の日時、所要時間、内容を確認できる資料が要求されています。
したがって、保険会社の承諾なく委任契約をした場合や弁護士費用を支払ってしまった場合には、保険金の支払いを受けられなくなる危険があります。
※客観的な資料とは、弁護士の領収書の他、費用の内容や法律相談の日時などを記載した弁護士の報告書や明細書です。
(3) 常に限度額まで支払われるものではない
①弁護士特約の保険金は、特約の約款で決められた基準で支払われる
弁護士特約は、常に限度額まで支払われるとは限りません。
例えば、実際に弁護士費用300万円を支払った場合でも、保険金は300万円に届かないという場合があります。特約で定められた保険会社の基準で計算をした金額が実際の支払限度額となるからです。
つまり弁護士費用300万円、法律相談費用10万円という金額は、それが最大の上限であって、この金額の範囲内で約款の基準で計算された金額が保険金として支払われるのです。
依頼した法律事務所の費用の計算方法と約款の費用の計算方法が異なる場合、支給される保険金の額が、実際に支出した弁護士費用に足りないという事態が起こり得るのです。
②弁護士特約の保険金が、実際の弁護士費用を下回るケース
支給される保険金の額が、実際に支出した弁護士費用に足りない典型的なケースを紹介します。
ア.弁護士特約における「経済的利益」
弁護士費用は、依頼者の得られる経済的利益を基礎として計算することは前述しましたが、この「経済的利益」の捉え方が、弁護士と保険会社で異なる場合があります。
弁護士特約では、この経済的利益は、損害賠償請求の金額から、次の3つの金額を差し引いた金額とされています。
- 既払い金
- 自賠責保険から支払いが予定される金額
- 加害者側の任意保険会社が事前に提示した賠償金額
これは、「経済的利益」を弁護士が介入した後に増額される金額と捉えるものです。
例をあげましょう。
Bが契約している任意保険会社は、示談交渉において賠償金600万円の提示をしていますが、Aは不満です。Aは弁護士を依頼して、Bに対し、1,000万円の損害賠償を請求する訴訟を提起しました。800万円を支払えとの判決を得ました。
この事件での経済的利益は、事件の着手時(1,000万円の損害賠償を請求する段階)では、
1,000万円-600万円=400万円
事件の終了時(800万円の判決を得た段階)では、
800万円-600万円=200万円
これを約款の基準で計算すると、
着手金 400万円☓5%+9万円=29万円
報酬金 200万円☓16%=32万円
合計 61万円
弁護士特約で支払われる保険金は、61万円となります。
イ.弁護士との委任契約における「経済的利益」
他方、弁護士が弁護士費用の計算をする場合、請求金額から任意保険会社の提示額などを差し引いた金額を経済的利益とするか否かは、弁護士が自由に決めることができます。
上記のケースで、任意保険会社の提示額600万円を経済的利益から差し引かずに弁護士費用を算出する場合は、着手金と報酬は次のとおりとなります。
着手金 1,000万円☓5%+9万円=59万円
報酬金 800万円☓10%+18万円=98万円
合計 157万円(税別)
この場合、弁護士費用と弁護士特約の保険金の差額は、
弁護士費用157万円-弁護士特約保険金61万円=差額96万円
したがって、弁護士費用のうち96万円は、依頼した本人が自己負担することになります。
ウ.依頼する前に、弁護士と保険会社によく協議してもらうことが必要
経済的利益を「弁護士が介入した後に増額した金額」とするか否かは、弁護士が自由に選択できます。弁護士特約と同様に考える法律事務所もあります。
逆に、既払い金や任意保険会社の提示額を差し引かない法律事務所もあります。
既払い金はあくまでも立て替え払いであり、任意保険会社の提示額も仮の提案に過ぎず、弁護士が事件を最終解決したからこそ確保できた利益と考えるのです。これは法曹界ではむしろ伝統的な考えです。
6.弁護士特約は弁護士や保険会社と十分相談して利用すべき
このように、依頼した弁護士が算定する費用と弁護士特約で算定する費用に差異があると、依頼者、弁護士、保険会社の間でトラブルに発展する危険もあり、予期しなかった差額分を本人が負担しなければならないこともあります。
このような事態を避けるには、依頼したい弁護士を見つけた場合は、正式に依頼する前に、弁護士特約を利用したい旨を弁護士に話し、弁護士と保険会社の間で、費用について十分に協議をしてもらうことが必要です。
弁護士特約に理解がある弁護士であれば、これに応じてくれますし、事情によっては、弁護士特約の基準に合せて費用を決めてくれるケースもあります。
弁護士特約の使い方において最も重要な注意点は、弁護士、保険会社と十分に相談しながら利用するということです。
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