自転車と車の交通事故の過失割合を図解解説
近年、交通手段おける自転車の存在感が際立っています。
健康志向、エコ志向、節約志向が背景にあるのでしょう。自転車での通勤、通学が見直され、都心では、背広にバックパックを背負い、スピードの出るロードバイクで車道を疾走するサラリーマンの姿も珍しくなくなりました。
他方で、自転車に関する交通事故の報道が目立ちます。
日常の足として利用する機会が多い自転車であるからこそ、事故に遭遇する危険も大きいと言えます。
ここでは自転車と自動車(四輪車)の交通事故について、最も争いの種となりやすい「過失割合」を解説します。
自転車で事故に遭ってしまった人で、保険会社が提示してきた過失割合や示談金に納得がいかないという方は、ぜひお読みください。
このコラムの目次
1.道交法における自転車の取扱い
道路交通法において、自転車は、「軽車両」に分類され、自動車(四輪車)、単車(オートバイ)と同じ「車両」として扱われます。
また、道交法では、自転車の交通方法について、自動車や単車と同じ交通ルールの適用を原則としつつ、自転車だけを適用除外としたり、自転車だけに特別なルールを設けたりする扱いをしています。
例えば、交差点での右折の際に、いわゆる「二段階右折」をする義務や、歩道の走行が許される特別の場合があることなどは、自転車に特有のルールです。
交通事故における自転車の過失割合の基準は、一般的に、歩行者、自動車、単車とは異なる扱いを受けます。
まず、自転車は、道交法上、「歩行者」と対比される「車両」のグループに属し、過失割合を考える上で、歩行者と同じほどには保護されません。
他方で、自転車は、自動車や単車よりは、要保護性が高いと考えられます。
その理由は次の各に各点にあります。
- 免許が不要であること
- 幼児、年少者、老人など社会的弱者が利用する機会も多いこと
- 事故が発生した際の運転者が受ける被害が大きいこと
- 高速走行する自動車、単車とは、速度、走行方法に明らかな違いがあること
- 他者に与える危険性も自動車、単車と明らかに異なること
- 道交法上、同じ「車両」でありつつも、異なるルールが適用される場面があること
以上から自転車は、歩行者ほどには保護されないが、自動車、単車よりは保護される、中間の存在ということができます。
ここからは、上記を踏まえた上で、自転車と車の交通事故の過失割合について解説していきます。
2.交差点での出会い頭の事故
事故自転車と自動車が、交差点で出会い頭に接触したケースです。
自転車Aは、西から東へ向かって走行して交差点(※)に進入し、自動車Bは、南から北へ向かって走行して交差点に進入しました。
このケースは説明をわかりやすくするために、次の条件を前提とします。
- 信号機は双方とも設置されていません。
- 一時停止標識も双方とも設置されていません。
- 東西方向と南北方向の各道路の道路幅は同じです。
- 交差点の周囲には、隙間なく住宅が建っており、東西方向、南北方向のどちらからも、交差点内に入らない限り、左右を見通すことはできません。
(1) 基本の過失割合
この場合、過失割合の基本は、A(自転車):B(自動車)=20:80となります。
自転車は速度が遅いので、出会い頭の事故の場合、自動車側から見て発見が容易だと考えられています。
(2) 過失割合が修正される例
その1:「キープレフト原則」違反
自転車Aが、自分が走行する道路の右側を走っていた場合です。
自転車は「車両」として、「左側通行」が基本です(法17条4項、18条1項)。右側走行は、このキープレフト原則に違反するので、自転車側に、プラス5が加算されます。
これにより過失割合は、25:75となります。
ただし、「キープレフト原則」違反が、常に自転車の過失をプラスに加算するものではありません。
例えば、交差点での出会い頭でも、ケース1と異なり、自転車Aが、東から西へ向かって走行してきた場合は、自動車Bの進行方向に向かって右側から、Aが交差点に進入してくることになります。
そのケースでは、自転車Aがキープレフトを守っているよりも、右側走行をしていたほうが、自動車Bからは、自転車Aの発見がより容易です。
従って、この場合には、自転車Aのキープレフト違反は、直ちに自転車の過失として加算することはなく、基本どおり、20:80が維持されることもあります。あくまで、状況に応じてという点に気を付けてください。
その2:「自転車横断帯」の走行
自転車は、「自転車横断帯」がある場所の付近では、その自転車横断帯によって道路を横断しなければなりません(法63条の6)。
他方、自転車が自転車横断帯を通行している場合は、自動車や単車は、その自転車に対して、横断歩道上の歩行者に対するのと同程度の注意義務を科せられています(法38条1項)。
そこで、ケース1でも、Aが自転車横断帯を通行していた場合には、過失割合をマイナス10減算して、10:90の過失割合とします。
また、自転車横断帯を走行している限り、仮にそれが道路の右側を通行する結果となり、キープレフト原則に違反するように見えても、それを加算の要素とはしません。
その3:自転車のスピード違反
昨今ブームのロードレーサーは、非常な高速での走行が可能です。しかし、自転車も車両として自動車や単車と同様の速度制限を受けます(法22条第1項)。
自転車の速度違反が制限速度からどの程度オーバーしていたかを後から認定することは非常に難しいことですが、例えば、自転車は通常時速15km程度であるところ、原付バイクの制限速度時速30km程度の速度にて走行していた場合には、自転車側を単車より保護する理由が乏しくなるため、現在では単車と四輪車との事故を参考にして過失割合が検討されます。
その場合は、過失割合は、30:70程度となります。
その4:夜間の走行
夜間の場合は、自動車Bのライトにより、自動車Bが交差点に差しかかっていることが自転車Aからも容易に発見ができます。
このため、夜間では、自転車にプラス5の加算となり、過失割合は25:75です。
3.進路変更における事故
次に、自転車Aと自動車Bが、共に同一路線上を、同一方向へ進行している場合です。
(1) 先行する自動車が進路変更して接触した場合
自動車Bが先行している後方を、自転車Aが同一方向に走行していた際、自動車Bが左寄りに進路を変更したところ、後方から来た自転車Aの前方進路をふさぐ形となり接触したというケースです。
車両は、後方から進行してくる車両が速度や方向の急変更を余儀なくされる危険のある進路の変更は禁止されています(法26条の2第2項)。
自動車Bは、これに違反したことになり、基本割合は、10:90とされます。
(2) 先行する自転車が進路変更して接触した場合
先行して道路の左側を走っていた自転車Aが、右側に進路変更したために、後ろからくる自動車Bの進行方向をふさぐ形となって接触したという場合です。
①自転車の前方に障害物がない場合
自転車Aの前方に、何も障害物がなく、そのまま直進できた場合は、過失割合の基本は20:80です。
ただし、自転車は、進路を変える際には、挙手やウインカー等により、進路変更の合図を行い、進路変更が終わるまで、その合図を継続しなければならないとされています(法53条1項)
そこで、自転車Aが、合図を出さずに進路変更をした場合には、プラス10の加算となり、30:70となります。
②自転車の前方に障害物がある場合
左側を走っていた自転車Aの前方に、駐車車両などの障害物がある場合には、基本割合は10:90になります。
これは、自転車の前方に障害物があることは、後方を走っている自動車からも認識できるので、先行する自転車が進路を変更する可能性が高いことを容易に知りうるからです。
4.左折時に自転車を巻き込む事故
交差点で自動車Bが左折をしようとしたところ、後方から、道路の左端を走ってきた自転車Aを巻き込んで接触したというケースです。
(1) もともと自動車が先行していた場合
交差点において左折する車両は、交差点の手前30メートルの地点で合図を出し(法第53条第1項、道路交通法施行令第21条)あらかじめ、できるだけ左側端に寄り、かつできる限り道路の左側端に沿って徐行しなければなりません(法34条第1項)。
左折時の巻き込みケースでは、この自動車Bの左側に寄る義務や後方の確認義務が不十分であることが大部分です。他方、自転車にも前方不注視などの義務違反があることが通常です。
そこで、この場合の基本割合は10:90とされています。
ただし、自動車Bが、すでに左折を開始しており、自転車Aの前方がほとんどふさがっているにもかかわらず、自転車Aが、自動車Bの横を無理にすり抜けようとして接触した場合は、自転車Aの過失割合が加算され、たとえば20:80となることもあり得ます。
(2) 後から来た自動車が自転車を追い越しながら左折した場合
交差点の手前30メートル以内は追い越しがそもそも禁止されています(法第30条3号)。
自動車Bが、これに違反して、自転車Aを追い越しながら左折をした場合は、自動車の過失がプラス10加算され、0:100となります。
5.その他自転車側の過失割合において修正要素とされる例
交通事故の過失割合を判断する要素は、事故状況・道路状況に応じて様々で、上の各要素は、そのほんの一部です。
以下には、参考のため、一般に自転車において過失割合の修正要素とされるものを簡単に列挙します。
著しい過失(自転車に+10加算) |
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重過失(自転車に+10から+15加算) |
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交通事故の示談の際、相手側が大きな過失割合を押し付けてくる場合があります。
しかし、過失割合は、単純に当事者が交通ルールに違反していることをもって過失を加算するわけではありません。
そのルール違反が、現実の事故発生、損害発生に寄与したものかどうかを考慮して判断しているのです。
示談交渉の際などには、このことに注意が必要です。
6.自転車事故・過失割合のご相談も泉総合法律事務所へ
自転車と自動車の接触事故の過失割合について、いくつかの例をご紹介しました。
これらの過失割合の基準は、裁判の実務上も参考にされる有力な基準ではありますが、あくまでも目安です。
実際の過失割合は、その事案に応じ、様々な角度から検討して結論が出るものです。同じパターンの事故だからといって、常に同じ過失割合になるものではないことにご注意ください。
交通事故の問題に遭遇した時に、具体的な過失割合の判断を知りたいという場合は、交通事故の専門家である弁護士に相談することをお勧めいたします。
泉総合法律事務所の弁護士は、交通事故の解決実績豊富な弁護士が多数在籍している法律事務所です。
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